行政書士は、企業や個人の依頼に応じて官公庁署に提出する書類作成、それらの手続き代行、生活またはビジネスに関する法律相談などを行う専門家です。
国家資格であること、開業・独立に向いていること、セカンドキャリアにも適していること、ビジネスチャンス拡大につながることなどの特徴から、長年に渡って人気のある資格となっています。
その反面、仕事内容や営業方法、顧客獲得の手段など、イメージしにくい面は否めません。
本記事では、行政書士の仕事内容を中心に、未経験でも取り組みやすい業務について解説します。
また、開業当初の仕事がないときの探し方や営業方法にも、お役立ち情報をお伝えします。
行政書士の仕事内容
行政書士の仕事内容は、行政書士は、民間の専門家として独立開業することの他、企業の法務部門やコンサルティング会社、不動産業などに勤めることもあります。また、他の専門家(税理士、社会保険労務士、弁護士など)と連携して、クライアントへのサービスを提供することも一般的です。
行政書士の書類作成に関する業務としては、次のようなものがあります。
- 官公署に提出する書類
- 権利義務に関する書類
- 事実証明に関する書類
その提出手続きの代理を行う代書的業務のほかに、一連の流れについてのコンサルティングを含んだ相談業務もあります。
また、その他特定業務として、
- 申請取次行政書士:出入国管理および難民認定法に規定する申請
- 特定行政書士:許認可等に関する不服申し立て手続きの代理
などもあり、守備範囲は非常に多岐に渡ります。
また、法律教育・研修: 法律に関する教育や研修を行うこともあります。企業や団体の法律研修を担当したり、行政書士試験合格を活かして、行政書士試験の受験生を対象とした予備校講師として活動することもあります。
なお、申請取次行政書士と特定行政書士としての仕事を行うにあたっては、それぞれ専門的な研修の受講と試験合格が必要です。
行政書士の仕事の具体例
行政書士の仕事内容は多岐に渡ると前述しましたが、取り扱う書類については、1万種類を超えると言われています。
全てをカバーすることは非常に難しいのが現状ですが、具体例としては、
- 株式会社、NPO法人、医療法人、社会福祉法人などの設立手続きや代理
- 旅客自動車運送事業、建設業、飲食業などの営業に関する許認可申請
- 自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)や遺産分割協議書作成
- 永住許可、在留資格認定証明書など外国人の仕事や生活に関わる申請
- 示談書、合意書、交通事故に関わる事実調査報告書作成など契約関連
- 補助金や給付金、ドローンの飛行に関する申請
といったことが挙げられます。
ほんの一部ではありますが、行政書士をイメージさせるにふさわしい仕事内容とも言えます。
行政書士ができないこと
仕事の範囲が広い行政書士とは言え、業務として立ち入ることは出来ない部分、つまり「仕事として行えないこと」があります。
具体的には弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、弁理士、海事代理士などの独占業務に抵触する業務はできないのです。
この辺の判断は一般には難しいことから、行政書士へ依頼する前に、対応できるかどうか確認することをおすすめします。
主な「できないこと」の例を挙げてみます。
【裁判関連】
原則として、裁判所や法務局に提出するような書類の作成や手続きは、行政書士では行えず、弁護士の業務となります。
示談交渉においても合意書、和解書の作成のみとなります。
【法律相談の回答】
法律相談は行政書士の業務には含まれません。
あくまでも法律相談は、弁護士に対応してもらうことがベストです。
【税務申告】
税務署へ提出する所得税、法人税、住民税、事業税などの申告書類作成および申告の代行はできません。
これらはすべて税理士の仕事となります。
【登記】
行政書士は、定款の作成や認証の手続きは可能ですが、会社設立登記や商業登記の申請は司法書士の独占的業務です。
以上、四つを挙げてみました。
行政書士として開業する場合は業務範囲を理解し、できないことについては他の専門家と連携ができるよう、ネットワーク作りも重要です。
未経験者に最適な業務
行政書士の未経験者でも取り組みやすい業務としては、生活や暮らしに役立つこと、ビジネスで役立つこと、それぞれ分けて考えると良いです。
一般的には以下の分野はニーズが高く、未経験者にとっても案件獲得のチャンスはあります。
- 法人設立
- 遺言・相続
- 外国人在留資格(国際関連)
- 建設業の許認可
- 権利義務(内容証明など)
ただし、ニーズの高さの裏には、競合も多いことも容易に想定できるため、案件獲得は営業方法(後述)や自身の強み次第という面が大きく影響します。
伸びると予想される分野
行政書士として携わる仕事内容は、ニーズの高さに着目することも良いですが、
- これから伸びると予想される分野
- 希少性のある分野
に目を向けてみることも重要です。
これから伸びると予想される分野は、ドローン関連と外国人向けのサービス、もしくはコンサルティングに関する業務が挙げられます。
ドローン関連は飛行許可申請がメインとなる業務ですが、自身がドローンの飛行に関心があるのなら、自ら申請してドローンの依頼に対応するサービスも可能です。
外国人向けのサービスは、主に在留資格やビザに関する業務を取り扱います。
その際は申請取次行政書士の資格が必要ですが、語学に少しでも自信があれば、希少性も相まって重宝される存在になり得る可能性は高いです。
さらにADR(裁判外紛争解決手続き)業務まで範囲を広めると、外国人の職場での困りごとをサポートできる行政書士としての活躍も視野に入れることができます。
近い将来、書類作成がAIに取って代わられることを危惧するならば、コンサルティング業務に注力するという方向性もあります。
ただし、行政書士の資格を活かしながら、どの分野に注力するかは、自ら見極めなければなりません。
他の資格を活かす
いわゆるマルチライセンスを差別化や強み、専門性、一貫サービス、ブランディングに活かすことも、行政書士として生き残る戦略のひとつです。
すでに所有している資格と組み合わせると、どのような事業展開が可能かを探ると、独自のサービスを生み出すきっかけになります。
例えば、FP(ファイナンシャルプランナー)であれば仕事の間口を広げるには最適ですし、社会保険労務士や司法書士などは業務の専門性と一貫性で丸ごと依頼される可能性も高まります。
国家資格に限らず、TOEICや英検で高いレベルにあれば、外国人関連に強みを発揮するには都合が良いです。
仕事がないときの探し方
未経験で開業した行政書士の多くは、軌道に乗るまでに数年を要した、廃業も覚悟したという声も少なくありません。
仕事がないときの探し方や営業方法は、
- ネットの活用
- 交流会などでの人脈づくり
をバランスよくやっていくことがポイントです。
ネットの活用
SNS、ウェブサイト、ブログなどを活用して情報発信を行い、信頼性の向上を図ります。
ただし漠然と情報発信するのではなく、活躍したい分野での具体的な顧客像を描いた上で、役立つ内容を提供することが肝心です。
ネット広告も有効ではありますが、運用に慣れない間は費用対効果が期待できないことがリスクとなりますので、開業当初は優先すべきではない方法と言えます。
交流会などでの人脈づくり
行政書士の仕事内容は、対面でなくても完結可能な業務もあり、商圏を限定しない働き方もできますが、それでも地元や近隣地域を疎かにすることはできません。
セミナーや勉強会、交流会などに積極的に参加することで、人脈を構築していけば業務の幅が広がるからです。
また、行政書士の学校・予備校時代の受験仲間での人脈を活かすことも有効です。
同業あるいは異業種、経営者などとの交流の際は、地域情報だけでなくニーズやトレンドをキャッチアップすることも仕事のひとつとなります。
まとめ
行政書士は法律知識を必要としながら、未経験でも始めやすいことが特徴です。
営業がしにくいという特徴があるため、開業当初は苦労の連続ということも想定されますが、それは行政書士に限ったものではありません。
仕事がないときは、ビジネスマッチングサイトの案件に募集したり、交流会や行政書士会を通じて知り合った同業者に、業務の補助を自ら申し出たりすることで、経験値と収入を得る方法もあります。
地道に前に進みながら、どの分野で活躍したいのか、自身の強みはどこにあるのか、自己分析することで目指すべき方向性が見えてきますので、具体的な目標を掲げて活動することが肝心です。
総合的に検討し、自分のライフスタイルやキャリアプランに合った仕事を選びましょう。また、仕事内容は一度決めたらそのままでなく、経験やスキル、ライフステージに応じて変化させることができます。
例えば、最初は他の行政書士事務所で働いて経験を積み、将来的に独立開業することを目指すこともできますし、独立開業後にコンサルタント業務を行うようにシフトすることも可能です。
また、行政書士としてのスキルを活かして、他の資格や専門知識を取得し、業務範囲を広げることも考慮できます。たとえば、社会保険労務士や司法書士などの資格を取得し、より幅広いサービスを提供できるようになります。
重要なのは、自分のキャリアプランや目標に応じて柔軟に仕事を選択し、自分自身の成長を促すことです。行政書士の資格を活かし、充実したキャリアを築いていきましょう。
参照
日本行政書士会連合会
https://www.gyosei.or.jp/
福岡県行政書士会
https://gyosei-fukuoka.or.jp/