宅建士の仕事内容とは?宅地建物取引士の資格試験の内容や難易度を解説
「宅建士ってどんな仕事なの?」
「宅建士の試験内容や難易度が知りたい」
このように、宅建士の仕事内容について気になっていませんか?
宅建士は国家資格のひとつです。重要事項の説明や書面への記入・押印などの独占業務があり、不動産業者に勤める場合は宅建士にしかできない仕事を任されるでしょう。
具体的な仕事内容は営業職か事務職かなどによっても異なりますが、経験を積めば保険会社や金融機関の交渉などの幅広い業務を任せてもらえることもあります。
こちらの記事では宅建士の仕事内容や一日の仕事例、資格取得のメリット・デメリットを紹介します。これから宅建の資格取得を考えている方はぜひ参考にしてください。
宅建士(宅地建物取引士)とは?
宅建士とは、国家資格である「宅地建物取引士」の略称で、宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業者(不動産業者)や個人・法人などの不動産取引に関する専門家です。宅地建物取引業者(不動産会社)に勤め、土地や建物を売買したり、賃貸物件を取り扱ったりする仕事です。
不動産取引は高額な取引であり、顧客は不動産に対する知識や売買経験がほとんどない方ばかりなので、顧客が不当に損害を被らないようにサポートする役割があります。
たとえば、顧客が知っておくべき重要事項の説明のほか、契約締結を進めるのは宅建士のみに認められた業務です。そのため、宅建士は不動産取引の専門家と言うことができます。
なお、宅建業者は従業員の5人に1人以上は宅建士の設置が義務付けられています。宅建士は需要が高い上、顧客のライフステージにも関わるためやりがいの大きな仕事です。
以下の記事では、おすすめの宅建の学校・予備校をランキング形式で紹介しているのでぜひあわせてご覧ください。
宅建士の仕事内容は?宅建士にしかできない業務
宅建士の主な仕事内容は以下の通りです。
- 不動産売買仲介
売主と買主をつなぎ、不動産売買契約の成立をサポートします。物件の価格査定、契約書作成、登記手続きなど、不動産取引に関する全ての業務を担当します。 - 不動産賃貸仲介
賃貸物件のオーナーと入居希望者をマッチングさせ、賃貸契約の成立をサポートします。物件情報の収集・提供、入居者募集、契約書作成、入居・退去手続きなどを行います。 - 不動産管理
賃貸物件やマンションの管理組合の代行を行います。家賃管理、修繕・メンテナンス、トラブル対応、共益費管理など、物件の運営に関する業務を担当します。 - 不動産投資コンサルティング
不動産投資に関するアドバイスやコンサルティングを提供します。投資物件の選定、収益性分析、資金計画、税務対策など、投資家のニーズに応じたサポートを行います。 - 不動産開発
土地の開発や分譲マンション・戸建て住宅の開発プロジェクトに携わります。土地取得、用途変更手続き、建築許可申請、販売戦略立案など、プロジェクトの企画から販売までを担当します。 - 不動産関連法務
不動産取引に関する法律や契約書のチェック、登記手続き、相続・贈与などの税務対策を行います。また、トラブル発生時の法的対応や紛争解決にも携わります。
これらの仕事内容以外にも、宅建士は不動産業界で幅広い業務に従事することができます。宅建取得者は、複数の業務を効率的に管理し、スケジュールを調整することが求められます。スタッフの指導や教育にも携わることがあります。
このうち、宅建士にしかできない業務には主に次の3つがあります。
- 契約前の重要事項の説明
- 重要事項説明書面に記名
- 契約書に記名
上記3つの業務は、宅建士の独占業務として法律で定められています。ここからは、それぞれの仕事内容について詳しく紹介します。
1.契約前の重要事項の説明
宅建士は、不動産の購入者・賃借人が損をしないように、契約前に重要事項について説明する義務があります。
具体的には、不動産の所有者・広さ・登記の名義人・インフラの供給施設・キャンセル時の取り決めなど、不動産に関わるさまざまな情報について説明する業務です。
全ての顧客が不動産取引に詳しいわけではないため、重要事項をあらかじめ説明することで不動産取引におけるトラブルを防ぐことにつながります。
2.重要事項説明書面に記名
重要事項説明書面(35条書面)に記名・押印するのも宅建士の独占業務です。
重要事項の説明内容は広範囲になるため、口頭のみで全て理解するのは困難です。場合によっては、説明したかどうかでお客さまとトラブルになる可能性がゼロではありません。
そのため、説明内容を記載した書面「重要事項説明書」を交付する必要があります。
重要事項説明書への記名・押印には、説明を行ったことの証明、および記載内容に対して宅建士が責任を持つという意味があります。
3.契約書に記名
契約書(37条書面)に記名・押印するのも宅建士の独占業務です。
「37条書面」は一般的に契約書と呼ばれ、契約に関わる重要な内容が記載された書面のことです。重要事項の説明の完了後、顧客との不動産取引が成立したら契約書を作成します。
契約書に記名・押印することで、適正な不動産取引が行われ取引内容に両者が合意したことの証明になり、契約後の顧客とのトラブル防止などにつながります。
宅建士の一日の仕事
不動産仲介業者に勤めていると仮定した場合、宅建士の一日の仕事例は以下の通りです。
- 出勤(8:30)
- オーナー訪問(9:00)
- 来店客の対応(10:00)
- 昼休憩(12:00)
- 3件の物件案内(13:00)
- 仮契約・オーナーへ連絡(16:00)
- 書類の作成等(18:00)
- 帰社(19:00)
不動産仲介業者で働く宅建士は、入居希望者と不動産オーナーの両者に対応するのが基本的な業務です。物件紹介などの来客対応のほか、物件の情報管理やオーナーとの面談といった仕事があります。
宅建士の仕事は楽?きつい?
宅建士の仕事のきつさや楽さについて気になっている方も多いかと思います。よく言われる宅建士の仕事がきつい理由・楽な理由には以下があります。
きつい理由 | ・クレーム対応の仕事も多い ・労働時間が長くなりやすい ・営業職はノルマがある ・事務職は年収が高くはない |
楽な理由 | ・事務職は定時出社・帰社しやすい ・事務職はノルマに追われない ・結果を出せば若くても出世できる |
どの仕事も同じですが、宅建士の仕事も楽な仕事ではありません。
宅建士の仕事がきついかどうかは職種によっても異なります。事務職も仕事がきついと感じることは多々あると思いますが、営業職の方がノルマなどがある分きついと感じやすいでしょう。
ただし、営業職は高収入も目指せるのが魅力のひとつです。
宅建士は仕事がない?仕事がないと言われる理由と将来性
「宅建士は仕事がない」「宅建を持っていても就職できない」という噂を耳にしたことがある方もいるかと思います。
結論を言えば、宅建士には仕事があります。宅建士は仕事がないと言われる理由は主に次の2つです。
- 宅建の資格が必要な求人が少ない
- 営業職は資格よりも成績を優先
不動産業界の求人は多くありますが、そのうち宅建の資格が必須の求人は限られており、わずか2割程度と言われています。そのほか、営業職になると資格よりも成績が優先されるので、宅建の資格があっても意味がないという考えから、宅建士は仕事がないという人がいると考えられます。
しかし、求人のなかには宅建士歓迎としているものが多く、求人票の必要事項としても受けていないだけで選考過程で宅建の有資格者が有利になる可能性は高いです。
また、宅建士の仕事はAIに仕事を奪われるとは考えにくく、不動産取引の需要がなくなることはないため宅建の将来性は高いと言えます。
以下の記事では宅建士の将来性や年代別の年収を紹介しているので、ぜひあわせてご覧ください。
関連記事:宅建士に将来性はある?将来性があると言える理由やAIとの関係を解説
宅建の仕事に必要なスキル・能力
宅建士は不動産に関する専門知識を持ち、顧客のニーズに応じたサービスを提供することが求められます。そのため、宅建士は以下のようなスキルや能力が求められることが多いです。
- 不動産に関する法律や制度の知識
宅建士は、不動産取引に関する法律や制度の知識を持っていることが必要です。宅地建物取引業法をはじめ、民法、登記法、建築基準法など、幅広い法律に精通していることが求められます。 - コミュニケーション能力
顧客と円滑にコミュニケーションを取り、ニーズを把握し、適切な提案やアドバイスができる能力が重要です。 - 交渉力
売買契約や賃貸契約の成立に向けて、当事者間の交渉を円滑に進める力が求められます。また、トラブル発生時の調停や解決にも力を発揮します。 - 分析力
不動産の価値や収益性を正確に分析し、顧客に適切な提案をする能力が求められます。市場動向や物件データを的確に把握し、適切な判断を下すことが重要です。 - 誠実さ・信頼性
不動産取引は高額であり、顧客の人生に大きな影響を与えるため、誠実さや信頼性が重要です。顧客の利益を最優先し、適切かつ公正なサービスを提供することが求められます。
これらのスキルや能力を持つ宅建士は、不動産業界で幅広い業務に対応でき、顧客からの信頼を得ることができます。自身のスキルや知識を磨き、専門家としての価値を高めることが重要です。
宅建士として働くには2年の実務経験と資格登録が必要
ここまで宅建士の仕事内容について紹介してきましたが、宅建士として働くためには実務経験と資格登録が必要なので注意しましょう。
宅建の資格を取得してから宅建士としての仕事を開始するまでの流れは次の通りです。
- 試験合格
- 登録実務講習(実務経験が2年未満の場合)
- 資格登録
- 法定講習(試験合格して1年以上経過した場合)
- 宅建士証交付
- 宅建士の仕事開始
宅建試験に合格したら、資格登録して宅建士証の申請・交付を受けることで仕事を開始できます。
実務経験が2年未満の場合は資格登録する前に、実務経験を2年以上積むか、あるいは登録実務講習を受ける必要があります。実務経験とは、顧客への説明や物件調査など宅地建物の取引に関する業務経験のことです。
なお、試験合格から宅建士証の交付までに1年以上経過した場合は、別途、法定講習を受ける必要があります。
宅建の資格を所得するメリット
宅建の資格を所得するメリットはさまざまありますが、特に大きなメリットは次の2つです。
- 高収入を目指せる
- 就職・転職活動が有利になる
ここからは、それぞれの詳細について紹介します。
1.高収入を目指せる
高収入を目指せるのは宅建の資格を取得するメリットのひとつです。
特に不動産会社に勤めている方の場合、宅建の資格を取得することでキャリアアップを有利にすることができます。たとえば、支店長などの役職を目指すことが可能です。
また、不動産の売買や賃貸のほか、保険会社や金融機関の交渉など幅広い業務を任せてもらえる可能性があります。
キャリアップと業務範囲が広がると同時に、資格手当がつくので収入アップ・高収入を目指せるのが宅建を取得するメリットです。
2.就職・転職活動が有利になる
就職・転職活動で有利になるのも宅建のメリットです。
宅建士は不動産業界の転職で有利になるほか、不動産以外の業界でも需要が高い職業です。
たとえば、金融機関では不動産を担保に融資を行う際、不動産の価値を評価するのに宅建士の力が必要になります。都市銀行はグループ会社に不動産会社を持っていることも多く、宅建士の需要は高いです。
そのほか、建築会社でも自社で建築した物件を販売する際に宅建士の力が必要です。そのため、宅建の資格を持っていれば就職や転職が有利になると言えるでしょう。
宅建の資格にデメリットはある?
宅建は国家資格の一つであり、取得してデメリットが生まれるものではありません。ただし、宅建の資格には以下2つの注意点があります。
- 資格試験の難易度はやや高い
- 資格登録や宅建士証の交付に費用がかかる
宅建試験は毎年約20万人が受験し、合格者数はそのうち約3〜4万人、合格率は約15〜18%です。そのため、宅建試験は難易度が比較的高いことがわかります。
また、宅建試験に合格して宅建士として働くためには、資格登録したり宅建士証を交付申請したりしなくてはいけません。宅建士証は5年に1回更新が必要なので、その都度費用がかかるのは欠点でしょう。
とはいえ、宅建以外の資格でも同様に費用はかかるので、宅建に特別なデメリットはないと言えます。
宅建士の給料はいくら?平均年収は約500万円
宅建士の給料は年代によって異なります。
宅建士の通信講座「フォーサイト」が行った調査によれば、宅建士の平均年収は年代別に以下と公表されています。
- 20代:300万円〜380万円
- 30代:420万円〜480万円
- 40代:500万円〜600万円
- 50代:600万円〜650万円
- 60代:430万円〜450万円
平均年収は基本的に年齢とともに上がり続け、40代には平均年収が500〜600万円となります。不動産会社によっては、営業成績に応じたインセンティブを設定しているところも多く、人によっては平均年収以上の給料をもらうことができます。
また、独立を視野に入れている方はさらなる高収入を目指すことが可能です。独立の方法やメリット・デメリットが気になる方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
関連記事:宅建士の独立開業にかかる費用は?独立のメリット・デメリットや失敗対策も紹介
宅建の資格を活かせる業種
宅建の資格を活かせる業種には、次の3つがあります。
- 不動産業(不動産会社・不動産管理会社)
- 建築業
- 金融業
宅建の資格を持っていると不動産業界はもちろん、建築業や金融業への転職も有利になります。
以下では、それぞれの詳細を解説します。
1.不動産業(不動産会社・不動産管理会社)
不動産会社や管理会社などの不動産業は宅建士が活躍する業種です。
不動産の売買や賃貸借の仲介を行う会社の場合、営業所につき5人に1人以上の宅建士を設置しなければならないため、宅建の資格を持っていると不動産会社からの需要が高いです。
また、不動産管理会社も同様に、不動産分譲の仲介で管理するために宅建士の需要があります。
2.建築業
建築業も宅建士が活躍できる業界のひとつです。
建設業では、自社で建築した不動産の販売や賃貸をするために宅建士の存在が必要です。
特に大手の住宅メーカーは家を建築する事業のほか、物件販売の事業を行っているところもあり、宅建士が必要とされます。
3.金融業
金融業界でも宅建士が活躍します。
金融業において顧客へ融資をする際、不動産を担保とすることがあります。不動産の担保価値を評価するためには、土地家屋に関する専門知識を持つ宅建士が必要です。
金融業の求人のなかには、宅建の資格保持者を歓迎するものも多いので、宅建士は金融業への就職・転職が有利と言えます。
宅建士の試験内容|受験費や申し込み方法を紹介
宅建士の試験内容や受験費用など、試験に関する概要は以下の通りです。
受験資格 | 特になし |
出題形式 | 四肢択一のマークシート方式。出題は50問 |
試験科目 | ・民法等:14問 ・宅建業法:20問 ・法令上の制限:8問 ・その他:8問 |
試験日 | 毎年1回。10月の第3日曜日 |
受験場所 | 在住している都道府県 (試験会場は毎年8月下旬ごろに送付) |
受験手数料 | 8,200円 |
合格率 | 約15〜18% |
合格基準 | 相対評価方式(合格点の定めはなし) |
宅建試験は毎年約20万人が受験する人気の資格です。不動産業者に勤めている方だけでなく、学生や主婦など幅広い人が受験します。
宅建士は何ヶ月で取れる?合格はすごい?試験の難易度を紹介
宅建の合格に必要な勉強時間は約200〜300時間と言われています。毎日2時間勉強した場合、100〜150日(3〜6ヶ月)で宅建に合格できる計算です。
ただし、あくまでも目安なので300時間以上勉強しても合格できるとは限らないので注意しましょう。
宅建の試験合格率は約15〜18%で、毎年約20万人が受験して合格者数はそのうち約3〜4万人です。試験は50問出題されますが、相対評価方式なので「何点取れば合格」というボーダーラインはありません。
宅建は合格率が高くないので、難易度はやや高い国家資格です。ただし、司法書士などと比べると難易度はそれほど高くないので、国家資格の中では比較的合格を目指しやすい試験と言えます。
まとめ
宅建士は国家資格のひとつで、不動産取引の専門家です。
宅建士には3つの独占業務があり、重要事項の説明や書面への記名・押印は宅建士しかできない決まりとなっています。さらに、宅建業を営む事務所は従業員の5人に1人以上の宅建士を設置しなければなりません。
宅建士は将来性が高く、高収入も目指せる資格なので、これから不動産業界への就職・転職を検討している方はぜひ宅建の資格取得にチャレンジしてみてください。