行政書士は、個人や法人として開業、または独立・起業に向いている職業であることから、非常に人気の高い資格です。
合格者数や登録者数は次の通りであり、そこからも人気の資格であることがわかります。
毎年、5,000人前後の資格試験合格者
出典:単位会所在地・会員数等 | 日本行政書士会連合会
日本行政書士会連合会の登録者数(2023年4月1日現在)は、個人会員数51,041人、法人会員数1,196社
公的な書類の作成を代行する代書的業務、複雑な許認可手続きに関するコンサルティングと代理申請のほか、街の法律家としての顔も持ち、行政と法務に関する専門家として開業・独立する際のポイントをお伝えします。
開業・独立の手続きと費用
行政書士として開業・独立するには、実務経験の有無に関係なく、それなりの手続きと費用が必要です。
なお、行政書士法(第2条)では、
- 行政書士試験合格者
- 弁護士
- 弁理士
- 公認会計士
- 税理士
- 公務員(諸条件あり)
が、行政書士となる資格を有する者として定められています。
いずれの立場にせよ、どのような手続きが必要か、負担する費用はどの程度なのか、この章で解説することにします。
行政書士名簿への登録
行政書士としての業務を行うためには、まず、日本行政書士会連合会が有する行政書士名簿への登録が必要です。
行政書士名簿へ登録するには、次のような手順を踏みます。
- 開業予定地の都道府県の行政書士会へ入会申し込み
- 当該の行政書士会を通じて登録に必要な書類を提出
行政書士名簿へ登録が完了するまでには、都道府県行政書士会が申請を正式受理してから約1.5ヵ月~2ヶ月ほど要することが一般的です。
また登録申請の手続きに必要な書類の内訳は、都道府県行政書士会により異なる場合がありますが、次の書類などの提出が求められます。
- 入会申込書
- 行政書士登録申請書
- 住民票
- 履歴書
- 資格を有する書面
- 誓約書
- 身分証明書
- 顔写真
- 事務所関連書類(登記事項証明書、賃貸借契約書、図面、写真ほか)
なお、書類の提出については、都道府県行政書士会の窓口に直接持参するか、郵送(レターパックや書留など)の方法があります。 行政書士としての仕事の第一歩という意味では、滞りなく準備したいものです。
開業・独立時の費用
都道府県行政書士会の事前チェックで問題がなければ、本申請へと進みます。
申請者本人が、印鑑や申請費用、登録免許税(収入印紙)を持参して窓口に出向くことが原則です。
本申請の時点で必要な費用は、次の通りです。
- 登録審査手数料:25,000円
- 入会預り金(入会金に充当):200,000円
- 登録免許税:30,000円(収入印紙を持参)
- その他諸費用:12,450円
- 県会費・支部会費:それぞれ3ヵ月分
諸費用とは、行政書士徽章、会員証、事件簿、請求書領収証、規程集など、入会の証として配布される物品購入費用です。
県会費・支部会費は、都道府県行政書士会で異なりますが、月額7,000円~8,000円ほどであり、それぞれ3ヵ月分ですから5万円程度を見込んでおくとよいでしょう。
登録の申請を初期費用とすると、30万円ほどの費用負担が発生します。
続いて運営コストですが、主に、次のようなコストが必要となります。
- 事務所費用
家賃、各種保険、光熱費、通信費、清掃、メンテナンスなどの費用
(自宅兼事務所では光熱費や通信費など) - 営業費用
チラシ、名刺、ホームページ、Web広告、研修などの費用 - 各種ツール
パソコンやスマホをはじめ、電子契約書、文書作成、顧客管理、経理などのシステムやツールなど、業務に関わるツール類の費用
その他にも細々とした備品、クライアント回りのための交通費、出張時の旅費なども運営コストです。
開業・独立のポイント
行政書士として独立開業を検討する際には、以下のポイントを考慮しましょう。
- 資格取得
行政書士試験に合格し、行政書士資格を取得することが第一歩です。 - 事務所開設
独立開業するには事務所を開設する必要があります。立地や賃料、設備などの条件を検討し、適切な場所に事務所を構えましょう。 - 事業計画の作成
開業にあたっては、事業計画を立てることが重要です。目標や収益計画、経費見積もりなどを具体的に考え、計画を立てましょう。 - 資金調達
開業資金が必要になります。銀行融資や個人資産、親族や知人からの借り入れなど、資金調達方法を検討しましょう。 - 届出手続き
行政書士として開業するためには、所轄の法務局に届出手続きが必要です。届出期限や書類など、手続きに必要な情報を確認しましょう。 - マーケティング戦略
顧客獲得のためには、広告やネットワークを活用した宣伝活動が必要です。効果的なマーケティング戦略を立てましょう。 - 顧客対応
顧客からの相談や問い合わせに迅速かつ丁寧に対応することで、信頼関係を築けます。顧客対応のスキルを磨きましょう。 - 継続的な学習
法律や制度は常に変化しています。最新の情報をキャッチし、継続的に学習してスキルを向上させることが重要です。 - 人脈作り
他の行政書士や関連業者とのつながりは、情報交換や相互紹介などビジネスに役立ちます。積極的に人脈を作りましょう。 - 適切なリスク管理
独立開業にはリスクが伴います。適切なリスク管理を行い、事業の持続性を確保しましょう。以下のポイントを考慮しましょう。- 保険加入
事業に関連するリスクをカバーするために、適切な保険に加入しましょう。賠償責任保険や事務所用火災保険などがあります。 - 紛争解決の準備
顧客とのトラブルや業務上の紛争が起こることがあります。紛争解決の方法や手順を理解し、対応できる体制を整えておきましょう。 - 経営管理
事業の成長を維持するためには、適切な経営管理が重要です。売上や経費の管理、財務状況の分析などを行い、経営状況を把握しましょう。 - ストレス対策
独立開業にはストレスが伴うことがあります。ストレス対策を取り入れ、自身の健康を維持しましょう。 - サービスの拡充
顧客ニーズに応えるため、サービスの幅を広げることが有益です。新たな分野や業務を学び、サービスを拡充していくことで、競争力を高めることができます。 - バックアップ体制の整備
病気や事故などの緊急事態に備え、業務を代行できる人材や協力者を確保しておくことが重要です。
- 保険加入
独立開業には準備や努力が必要ですが、自分自身のビジョンや目標に基づいて事業を展開し、成功を目指しましょう。
開業・独立の形態
行政書士として開業・独立する際の事業形態としては、次の形態に分けられます。
- 法人に所属
- 個人(個人事業主)
実務経験が無い場合は個人事業主からのスタートになりますが、行政書士法人の勤務を経て独立という場合は、有志と共同で法人を設立することもあります。
どのような形態で業務を始めるにしろ、自分にふさわしい働き方を選択することが重要です。
自宅兼事務所
自宅を事務所とする場合は、テレワークをベースにクライアントとのやり取りを行うことが、最適なスタイルと考えられます。
移動時間を打ち合わせに割くことができますし、旅費、交通費を抑えられます。
家賃を支払う必要がなく、光熱費や通信費も低く抑えられるため、運営費用は抑えられます。
税務署への開業届、個人とは別の業務用の口座を忘れないようにしましょう。
事務所を賃貸
事務所を借りて事業を行う場合は、クライアントとの打ち合わせや書類作成などの執務を行うスペースを確保できることが大きなメリットです。
また、事務所があるという事実が、信頼性に繋がることもあります。
ただし顧客が少ない時期は、運営コストのひっ迫で苦戦することが予想されるため、事務所開設は数年後の目標とすることも、ひとつの考え方です。
実務経験者と協業
実務経験者と共同で新たに開業という選択肢もあります。
例えば、配偶者が行政書士法人から独立するタイミングで、夫婦で共同代表を務めるといったケースです。
初期費用や運営コストの分担だけでなく、協業者との相性、方向性に問題がなく、スキルセットによっては多様な事業展開ができるメリットがあります。
実務経験を積むということなら既存の行政書士法人への所属がベストですが、上司と部下という関係性が馴染めないのであれば、この開業スタイルは最適です。
開業・独立のメリット・デメリット
最後に、行政書士法人や一般企業の法務部などに所属することより、開業・独立を選択するメリット、またはデメリットについてまとめてみました。
開業・独立のメリット
まずは、行政書士として、開業・独立する場合のメリットです。
- 自分のペースで働ける
法人に所属する場合、規則に則って働くことが求められますが、自身が代表者であれば、働き方を自由に選択することができます。
自己管理能力が向上し、時間の使い方や業務の優先順位を考える能力も高まります。 - 報酬は無限大
一番の魅力は報酬面で、仕事の依頼数が年収に繋がります。
しかし、数をこなすスピード、納期の調整、条件が厳しい依頼など複雑な案件においては、ストレスを感じることも考えられます。
得意分野を絞り込むといった戦略的な事業計画が必要です。 - 自己実現
自分がやりたいと思う分野に特化すれば自己実現の機会が増えます。
また、主導権は全て自身が握ることになるため、高い責任感と使命感の元で業務を行うという喜びは格別と言えます。
引退も自らの判断次第のため、それまでに後継者の育成など、第二のキャリア形成にも役立ちます。
開業・独立のデメリット
次に、行政書士として、開業・独立する場合のデメリットです。
- 自己責任の増加
クライアントからのクレームやトラブルの対応は、全て自身で解決しなければならないため、業務に対するストレスと責任は大きくなります。 - 事業の安定性
収入が安定するまでは、数年を要することも珍しくありません。
一方、依頼数が多くなれば、仕事とプライベートのバランスを取ることが難しくなる面もあります。 - 時間の使い方
クライアントからの急な依頼、短納期案件などは、プライベートな時間を犠牲にせざるを得ません。
キャパシティを超える業務量は、仕事の品質と効率を低下させるだけでなく、気持ちに余裕がなくなりミスにつながるリスクがあります。
まとめ
行政書士として開業・独立する機会は、法律で定められている有資格者ならば、いつでもあると言えます。
行政書士の資格取得をめざして、行政書士の学校・予備校に通って、せっかく合格を勝ち取った資格です。行政書士資格の勉強をするにあたって当初目指していた夢はぜひ叶えたいものです。
経験の有無を問わず開業・独立を考える際には、どのような分野で案件を獲得していくか、ニーズと得意とするスキルのマッチング、さらにはメリットとデメリットを考慮した上で、具体的な事業計画を立てることが重要です。
事業計画を策定したら、目標達成に向かって営業活動を行い、案件獲得に奔走することが開業・独立当初では求められます。
クライアント獲得の近道はありませんが、行政書士としての第一歩を、まずは踏み出しましょう。