相続や遺言の相談を受ける行政書士にとって、「争わない相続」を実現するためには、法律の知識だけでなく、資産全体を見渡した資金計画の視点も欠かせません。そこで注目したいのが、FP(ファイナンシャルプランナー)とのダブルライセンスです。
行政書士は遺言書の作成支援や遺産分割協議書の作成、相続手続きの代行などを扱う一方、FPは保険・年金・税金・不動産・相続・事業承継といったお金に関する幅広い知識を持っています。この2つを組み合わせることで、相続対策の提案から書類作成までを一貫してサポートできるようになります。
本記事では、行政書士を軸にFPとのダブルライセンスを検討している方に向けて、メリット・デメリット、試験の違い、どちらを先に取得すべきかを解説します。
行政書士とFPのダブルライセンスはおすすめ?
結論として、行政書士とFPのダブルライセンスは、特に相続・遺言・生前対策を扱いたい行政書士にとっておすすめの組み合わせです。理由は次の3つです。
行政書士業務とFPの知識は相性がいい(特に相続・遺言分野)
行政書士は遺言書作成の支援や遺産分割協議書の作成を通じて、相続に関わる場面が多い資格です。しかし、行政書士の業務は法律に基づく書類作成が中心であり、「誰にどの財産をどう遺すべきか」「生前贈与を活用すべきか」といった資産全体を踏まえた提案は、本来の業務範囲を超えてしまいます。FPの知識があれば、資産状況や保険・年金の受け取り方まで含めた総合的な視点から相続対策を提案し、その内容を遺言書や協議書という形に落とし込むところまで一貫して対応できます。
試験範囲の重なりは少ないが、学習の負担は軽い
行政書士試験とFP試験は出題科目が大きく異なるため、宅建のように民法などで直接学習内容が重なる部分は多くありません。しかし、FP2級の合格に必要な勉強時間は150〜300時間程度とされ、行政書士試験に比べて短期間で取得できるため、行政書士としての実務を続けながらでも無理なく挑戦しやすい資格です。
「争族」を防ぐ提案から書類作成までワンストップ対応できる
相続はしばしば「争族」と呼ばれるほど、家族間のトラブルに発展しやすい分野です。FPの知識を活かして生前のうちに資産状況を整理し、家族構成やライフプランを踏まえた円満な資産承継の方向性を提案したうえで、行政書士として遺言書や協議書を作成できれば、依頼者にとって非常に心強い専門家になれます。
行政書士×FPのダブルライセンスで広がる業務
行政書士とFPのダブルライセンスを持つことで、以下のような業務に対応しやすくなります。
- 遺言書作成にあわせた資産全体の棚卸しと、生前贈与・保険活用を含めた資産承継プランの提案
- 事業承継を控えた経営者への、自社株や事業用資産の整理・承継スキームの提案と関連書類の作成
- 成年後見制度の活用提案と、任意後見契約書・財産管理契約書の作成
- 相続発生後の遺産分割協議に向けた、財産目録の作成と分割案のシミュレーション
- ライフプランに応じた各種契約書(任意後見、死後事務委任契約など)の提案・作成
ただし、具体的な相続税額の計算や税務申告は税理士の、不動産の相続登記は司法書士の、具体的な法律紛争の代理は弁護士のそれぞれ独占業務です。行政書士とFPのダブルライセンスは、あくまで「資産状況の整理・提案」と「関連書類の作成」の範囲にとどまり、必要に応じて税理士・司法書士など他の専門家と連携する体制を整えておくことが重要です。
行政書士とFPの業務上の相乗効果
行政書士とFPの組み合わせが特に力を発揮するのが、相続・生前対策・事業承継といった「お金と法律の両方が関わる」場面です。
例えば、高齢の依頼者から「元気なうちに財産を整理し、家族に迷惑をかけないようにしたい」という相談を受けた場合、FPとして保険・年金・不動産を含めた資産状況を整理し、家族構成やライフプランを踏まえた資産承継の方向性を一緒に考えます。そのうえで、行政書士として遺言書の作成支援や、判断能力の低下に備えた任意後見契約書・財産管理契約書の作成まで対応できるため、依頼者は複数の専門家を渡り歩く必要がありません。
また、中小企業の経営者から事業承継の相談を受けるケースでも、FPとしての知識を活かして自社株や退職金、生命保険を活用した承継プランの方向性を整理し、行政書士として会社設立や定款変更、各種契約書の作成をサポートするといった連携も可能です。相続税の具体的な試算や申告が必要な場面では税理士と連携することで、依頼者にとってワンストップに近いサポート体制を構築できます。
さらに、住宅ローンや保険の見直しを検討している顧客に対して、FPとして家計全体のバランスを整理しつつ、行政書士として各種契約書の確認や必要書類の作成をサポートするなど、相続に限らず幅広いライフイベントで連携できる場面があります。
行政書士試験とFP試験を比較
行政書士試験とFP(2級)試験の違いを、試験科目・受験資格・勉強時間・難易度の観点から比較します。
比較①試験科目と試験日
| 行政書士 | FP2級 | |
|---|---|---|
| 試験科目 | 法令等:5科目(基礎法学・憲法・民法・行政法・商法/会社法) 一般知識等:3科目(政治・経済・社会/情報通信・個人情報保護/文章理解) | 学科試験・実技試験(ライフプランニング、リスク管理、金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業承継) |
| 試験日 | 例年11月第2週の日曜日 | 2025年よりCBT方式に移行し、通年で受験可能 |
| 試験時間 | 13:00〜16:00(3時間) | 受験方式により異なる |
| 試験実施団体 | 一般財団法人行政書士試験研究センター | NPO法人日本FP協会/一般社団法人金融財政事情研究会 |
行政書士試験は年1回、11月に決まった日程で実施される一方、FP技能検定は2025年からCBT(コンピューターを使った試験)方式に移行し、期間内であれば都合のよい日程で受験できるようになりました。行政書士試験の学習の合間を縫って、FP試験の対策・受験を柔軟に進められるのは大きなメリットです。
比較②受験資格
| 行政書士 | FP3級 | FP2級 | |
|---|---|---|---|
| 受験資格 | なし | なし | 3級合格者、実務経験2年以上、AFP認定研修修了者のいずれか |
行政書士試験には受験資格がなく、誰でも挑戦できます。FPは3級には受験資格がありませんが、2級を受験するには3級合格などの条件を満たす必要があります。そのため、FPからダブルライセンスを目指す場合は、まず3級から挑戦し、2級へとステップアップしていく流れが一般的です。
比較③勉強時間
| 行政書士 | FP2級 | |
|---|---|---|
| 勉強時間 | 約600〜1,000時間 | 約150〜300時間 |
行政書士試験の合格に必要な勉強時間は約600時間〜1,000時間程度、FP2級の合格には約150時間〜300時間程度が必要といわれています。FPは行政書士に比べて必要な勉強時間が短く、ダブルライセンスの中でも比較的取り組みやすい部類に入ります。
比較④難易度と合格率
一般財団法人行政書士試験研究センターの発表によると、令和7年度の行政書士試験の合格率は14.54%(受験者50,163人/合格者7,292人)、令和6年度は12.90%(受験者47,785人/合格者6,165人)でした。
一方、日本FP協会が実施した2025年4〜9月のFP2級試験の合格率は、学科試験が54.78%、実技試験が69.67%となっており、学科・実技ともに5割を大きく超える水準です(参照:FP技能士の取得者数及び試験結果データ|日本FP協会)。
合格率だけを見れば、FP2級のほうが行政書士試験よりも圧倒的に合格しやすい試験といえます。ただし、FP1級になると難易度は大きく上がり、行政書士と同程度かそれ以上の学習が必要になるとされています。ダブルライセンスの土台としては、まずはFP2級までの取得を目指すのが現実的です。
比較⑤試験の特性
行政書士試験は、法令等(憲法・民法・行政法・商法など)を中心に、法律を体系的に理解し、記述式で自分の言葉で説明する力まで問われる「法律特化型」の試験です。
一方、FP試験は、保険・年金・税金・不動産・相続など実生活に密着したお金の知識を幅広く問う「実生活密着型」の試験で、社会人としての一般常識に近い内容も多く含まれます。そのため、FPは資格試験の学習に慣れていない人でも比較的取り組みやすく、行政書士試験のような専門色の強い試験へ進む前のウォーミングアップとしても適しています。
行政書士とFPはどちらが難しい?
行政書士試験とFP試験の難易度は、合格率・必要な勉強時間のどちらで比較しても行政書士のほうが難しいといえます。FP2級は、3級で身につけた基礎知識をベースに応用力を問う試験ではあるものの、出題範囲は生活に身近なお金の知識が中心で、暗記中心の学習でも十分に合格を狙えます。
一方、行政書士試験は法令等の専門知識に加えて記述式問題への対応力も求められ、合格基準点も厳しく設定されているため、しっかりとした学習計画がなければ合格は難しい試験です。
行政書士とFPはどちらを先に取得すべき?
どちらを先に取得すべきかは、現在の状況や目的によって異なります。
FPを先に取得したほうがいい人
- 資格試験の学習に初めて取り組む人
- 保険・年金・税金などお金の知識を実生活や仕事に活かしたい人
- 短期間で資格を取得し、成功体験を積んでから難関資格に挑戦したい人
- 相続・生前対策の相談を受ける機会が多い、または今後増やしたい人
FP2級は行政書士試験に比べて学習範囲が身近で、勉強時間も短くて済むため、資格試験の学習に不慣れな人が最初に取り組む「入り口」として適しています。FPで身につけた相続・保険・税金の基礎知識は、行政書士として相続関連の業務を扱う際の土台にもなります。
行政書士を先に取得したほうがいい人
- すでに独立開業を目指す方向性が固まっている人
- 相続・遺言・許認可業務をメインの柱にしたい人
- ある程度まとまった学習時間を確保できる人
- 法律知識を軸にしたコンサルティング業務に強みを持ちたい人
行政書士は独立開業に直結する資格であり、遺言・相続分野の専門家としての地位を確立しやすい資格です。行政書士としてのキャリアの方向性がすでに固まっている場合は、先に行政書士を取得し、資産全体を踏まえた提案力を高める手段としてFPを後から追加するという順序がおすすめです。
FP技能検定はCBT方式により通年で受験できるため、行政書士試験の学習と並行して、あるいは合格後の実務経験を積みながらでも比較的取り組みやすい点も、順番を考えるうえでのポイントになります。
行政書士とFPのダブルライセンスのメリット・デメリット
行政書士とFPのダブルライセンスには、以下のようなメリットがあります。
- 相続・生前対策・事業承継の相談で、資産全体を踏まえた提案から書類作成まで一貫して対応できる
- 他の行政書士事務所との差別化になり、「お金に強い行政書士」として選ばれやすくなる
- 保険・金融機関との接点が増え、紹介による新規案件の獲得につながりやすい
- FP2級までであれば比較的短期間で取得でき、行政書士業務と並行して挑戦しやすい
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- FPには独占業務がなく、資格単体では収入に直結しにくいため、あくまで行政書士業務の付加価値を高める位置づけになる
- 具体的な税額計算や申告、不動産登記、法律紛争の代理は税理士・司法書士・弁護士の独占業務であり、業際を意識した連携が必要になる
- AFP・CFPとして活動を続けるには、資格の更新研修や継続教育単位の取得が必要になる場合がある
- 2つの資格を名乗ることで専門分野が広く見え、かえって「専門性が薄い」と受け取られるリスクもある
特に、FPは弁護士・税理士のような独占業務を持たない資格であるため、行政書士のメイン業務を補完する「付加価値」として位置づけ、業際を超える相談は他の専門家と連携する姿勢を持つことが重要です。
ダブルライセンスを取得するなら通信講座・予備校がおすすめ
行政書士・FPのどちらも独学で合格を目指せる試験ですが、限られた時間で2つの資格を効率よく取得するなら、通信講座や予備校の活用がおすすめです。特にFPはCBT方式により受験タイミングを柔軟に選べるため、行政書士試験の学習スケジュールに合わせてFP講座を組み込みやすいのも特徴です。各予備校の講座内容や費用、口コミについては、当サイトの行政書士講座・FP講座の比較記事もあわせてご確認ください。
行政書士とFPのダブルライセンスに関するよくある質問
FP3級と2級、どちらから受けるべき?
FP2級の受験資格を満たしていない場合は、まず3級から挑戦するのが一般的な流れです。3級は基礎知識を問う内容が中心で、行政書士試験の学習と並行しても取り組みやすい難易度です。3級合格後、2級へとステップアップしましょう。
行政書士とFP、資格の更新は必要?
行政書士は登録後、資格自体の更新試験はありませんが、行政書士会への年会費の支払いや研修参加が求められます。FP技能士(国家資格)自体に更新はありませんが、AFP・CFPとして活動する場合は、日本FP協会が定める継続教育単位の取得と資格の更新手続きが必要です。
行政書士とFPの業務範囲を分けて設計する
ダブルライセンスの価値は、何でも一人で対応することではなく、相談内容を整理して適切な専門家へつなげられることにあります。相続・事業承継の相談では、最初のヒアリングで業務範囲を確認しましょう。
| 相談内容 | 行政書士・FPが担える範囲 | 連携が必要な専門家 |
|---|---|---|
| 遺言・相続手続 | 遺言書作成支援、必要書類の整理、資産・家族状況のヒアリング | 紛争・代理は弁護士、登記は司法書士 |
| 相続税・贈与税 | 財産一覧と将来資金の整理、相談論点の見える化 | 具体的な申告・税額計算は税理士 |
| 保険・家計 | 家計収支、保障、老後資金の計画整理 | 商品の勧誘・契約は登録・所属条件を確認 |
| 事業承継 | 後継者・資産・許認可の課題を整理 | 株式評価・税務、法務、登記は各専門家 |
資格名を並べるだけでは信頼につながりません。できること・できないこと、報酬の範囲、連携先を事前に説明できる体制を整えることが重要です。
どちらを先に取得するかの判断基準
| 目指す方向 | 先に検討しやすい資格 | 理由 |
|---|---|---|
| 許認可・相続書類を軸に独立したい | 行政書士 | 業務の土台となる法律・手続知識を先に整えやすい |
| 家計・保険・資産形成の相談を広げたい | FP | 相談の聞き取りと資金計画の型を先に身につけやすい |
| 相続・事業承継を専門分野にしたい | 行政書士→FP | 書類作成と資産全体の整理を組み合わせられる |
| 短期間で学習成果を作りたい | FP技能検定から | 受験機会を調整しやすく、行政書士の学習計画と分けやすい |
試験制度、受験資格、CBT方式の実施日程などは変更される可能性があります。行政書士は行政書士試験研究センター、FP技能検定は日本FP協会の試験案内で最新情報を確認してください。
まとめ
行政書士とFPのダブルライセンスは、相続・遺言・生前対策・事業承継を扱いたい行政書士にとって、提案力と信頼性を大きく高められる組み合わせです。FP2級までであれば比較的短期間で取得できるため、行政書士としての実務を続けながらでも挑戦しやすいのも魅力です。
一方で、FPには独占業務がなく、税務申告や登記など他の専門家の独占業務との線引きを意識する必要がある点には注意が必要です。自分のキャリアの方向性を踏まえて、どちらを先に取得するか、無理のない計画を立てて挑戦しましょう。

