所得税法
個人が1年間に得た所得に課される所得税について定めた税法科目。法人税法との選択必修で、資産税や個人事業主の税務に強くなりたい方に選ばれています。
所得税法は、個人が1年間に得た所得(儲け)に課される所得税について定めた法律及びその関連法令を学ぶ科目です。税理士試験では、法人税法とあわせて選択必修科目に指定されており、どちらか一方の合格が受験資格上の必須要件になります。個人事業主や資産家のクライアントを多く担当する税理士を目指す方に選ばれる傾向があります。
所得税法では、所得を給与所得・事業所得・不動産所得・利子所得・配当所得・譲渡所得・その他の所得の7区分に分類し、各区分ごとに収入から必要経費を差し引いた金額を合計して課税所得を算出します。そこから所得控除や給与所得控除、基礎控除などを適用し、最終的な税額を求めるという流れです。累進課税制度が採用されており、所得が高くなるほど税率も上がる点が法人税との大きな違いです。
個人の所得に対しては所得税とあわせて住民税も課されますが、住民税は都道府県税・市町村税として所得税とは別に計算・徴収されます。また、給与所得については源泉徴収制度が採用されており、勤務先が給与から所得税を天引きして納付する実務も、所得税法の理解と密接に関わっています。相続税申告や資産税コンサルティングの現場でも所得税の知識は頻繁に求められるため、実務直結度の高い科目といえます。
所得税法の試験範囲

所得税法の試験で問われる主な内容は、次のとおりです。理論・計算のいずれも出題範囲が広く、条文の趣旨を正確に理解したうえで、個別論点を計算に落とし込む力の両方が求められます。
所得の区分(10種類)
給与所得、事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、譲渡所得、山林所得、一時所得、雑所得、退職所得の分類と、それぞれの収入・必要経費の計算方法。
課税所得の計算
各所得区分ごとの収入から経費を差し引いた金額の合計と、所得控除・基礎控除等を適用した最終的な課税所得の算出プロセス。
累進課税と税率
所得金額が増えるほど段階的に税率が上がる累進課税のしくみと、超過累進税率の計算方法。
源泉徴収制度
給与や報酬の支払者が所得税をあらかじめ天引きして納付する制度のしくみと、年末調整との関係。
住民税との関係
所得税と住民税がそれぞれ別に計算・徴収される点、両者の課税年度のずれと連動するしくみ。
所得控除・税額控除
基礎控除、配偶者控除、扶養控除、医療費控除、住宅ローン控除など、税額に直結する各種控除の適用要件。
所得税法と法人税法は、どちらか一方の合格が税理士試験の必須要件です。両科目とも学習ボリュームが大きい(目安600時間)ため、実務でどちらの分野を専門にしたいかを踏まえて選ぶ受験生が多くみられます。
所得税法の合格率推移

国税庁が公表している税理士試験の結果によると、所得税法の合格率は次のように推移しています。あわせて選択必修のペアとなる法人税法の数値も掲載します。
| 科目 | 令和6年度 | 令和7年度 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 所得税法 | 12.6% | 13.0% | +0.4pt |
| 法人税法 | 16.4% | 13.5% | ▲2.9pt |
税理士試験は競争試験(相対評価)のため、その年の受験者層のレベルや問題の難易度によって合格率が変動します。所得税法は例年10〜13%台で比較的安定して推移しているのに対し、法人税法は年度による振れ幅がやや大きい傾向があります。単年の数値だけでなく、複数年の推移も踏まえて学習計画を立てることが大切です。
所得税法の出題傾向と近年の本試験の特徴

所得税法の本試験は、理論問題(第一問)と計算問題(第二問)でおおむね50%ずつの配点となる年度が多く、どちらか一方に偏った対策では高得点が狙いにくい科目です。理論問題では、条文の趣旨をそのまま問う出題に加えて、複数の制度を比較させたり、具体的な事例に当てはめて論述させたりする「事例理論」の出題が増える傾向にあります。単純な暗記だけでなく、制度趣旨を自分の言葉で説明できる理解力が求められます。
計算問題では、給与所得・事業所得・不動産所得・譲渡所得など複数の所得区分を組み合わせた総合問題が中心です。近年は住宅ローン控除や医療費控除といった身近な所得控除の適用要件を細かく問う出題や、金融所得課税に関する論点(上場株式等の譲渡所得・配当所得の課税方式選択など)も出題されており、税制改正の内容を毎年キャッチアップしておく必要があります。予備校の直前対策講座では、こうした改正論点を重点的にカバーしているため、独学の場合でも改正情報だけは必ず最新のものを確認するようにしましょう。
所得税法の学習時間とスケジュールの目安

所得税法の標準学習時間は約600時間が目安とされ、1日2〜3時間の学習で8〜10ヶ月程度、他科目と並行する場合は1年〜1年半程度を見込む受験生が多くなっています。大まかな学習の流れは次のとおりです。
基礎期(3〜4ヶ月)
所得の10区分と計算方法をインプット。個別問題を繰り返し解いて基本論点を定着させる。
応用期(3〜4ヶ月)
控除の組み合わせや複数所得の総合問題に対応。理論の暗記と趣旨の理解を並行して進める。
直前期(2〜3ヶ月)
答練・模試で本試験形式に慣れ、時間配分と解答の優先順位づけを固める。
本試験
例年8月に実施。理論・計算をバランスよく得点することが合格のカギ。
所得税法を選ぶメリット・向いている人

資産税・相続分野に強くなる
個人の所得や資産に関する知識が身につくため、相続税申告や資産税コンサルティングに携わりたい方に直結するメリットがあります。
個人事業主・フリーランス向け業務に活きる
独立開業後、個人事業主やフリーランスの確定申告支援を主な業務にしたい税理士にとって実務上の土台になります。
身近な税金でイメージがつかみやすい
会社員の給与や年末調整など、日常生活と接点の多い税金を扱うため、法人税法に比べて内容をイメージしやすいという声もあります。
こんな人におすすめ
「将来は個人のお客様を中心に担当したい」「相続・資産税の分野に進みたい」という方は、所得税法から着手するのがおすすめです。
所得税法の学習でつまずきやすいポイント

所得税法は身近な税金を扱う分、油断すると得点が伸び悩みやすい科目でもあります。ここでは受験生が特につまずきやすい3つのポイントを紹介します。
①10種類の所得区分の判定ミス。同じ収入でも、事業所得・雑所得・給与所得のどれに該当するかで必要経費の範囲や税額が大きく変わります。特に副業収入や不動産の貸付規模による事業的規模の判定は、条文の要件を正確に覚えていないと本試験で確実に失点する論点です。判例・通達をベースにした判定基準を、単なる暗記ではなく「なぜそう区分されるのか」という理屈から理解することが遠回りに見えて最短ルートになります。
②控除の適用順序と限度額の混同。所得控除は基礎控除・配偶者控除・扶養控除・医療費控除・社会保険料控除など種類が多く、それぞれ適用要件と控除額の計算方法が異なります。計算問題では複数の控除を正しい順序で適用しないと、後続の税額計算まですべて連鎖的に誤ってしまうため、控除ごとの計算パターンを一つずつ確実に潰しておく必要があります。
③理論暗記の量に圧倒される。所得税法は理論問題の出題比率が高く、条文をそのまま書かせる問題も出題されます。範囲を絞らずに全条文を丸暗記しようとすると挫折しやすいため、予備校の理論マスターなどで「出題頻度の高い理論」を優先順位付けし、計算論点と紐づけながら覚えていく学習法が効果的です。
所得税法の攻略法

理論対策(出題形式が年度によって変化しやすい)
所得税法の理論は個別問題と応用問題に大きく分かれますが、試験委員の交代などの影響で、年度によって出題のされ方が変わりやすいのが特徴です。1つの論点を論述させる形式もあれば、複数の制度の関連性を問う問題や、1題で複数の論点を同時に問う形式で出題されることもあります。法人税法に並ぶボリュームがあるため、理解と暗記の両方に相応の時間を要します。
計算対策(個別問題から総合問題まで幅広く出題)
計算は、個人の納付すべき所得税額を具体的に求めさせる形式で出題されます。かつては個別問題が中心でしたが、近年は特殊論点から総合問題まで出題の幅が広がっています。総合問題であっても、まずは個別論点の理解が前提になるため、基本論点をいかに取りこぼさず得点するかが合否のポイントです。論点数が多い分、演習量を確保して定着させる必要があります。
答練・演習の活用法
所得税法は範囲が広いため、独学だけで全論点をカバーするのは容易ではありません。予備校の答練を定期的に受けることで、自分の弱点論点を早期に発見し、本試験までに優先順位をつけて復習できます。特に直前期は、新しい論点に手を広げるより、既に学習した範囲の精度を高めることを優先しましょう。
所得税法は個人の税務に密接に関わる分野であり、税理士として個人の確定申告や相続対策に携わる際の土台になります。試験委員の交代で出題形式が変わりやすいため、演習・答練を通じて解答の優先順位づけとスピード感覚を確認しながら、直前期まで学習ペースを維持することが大切です。
所得税法の知識を実務でどう活かすか

所得税法は試験科目としてだけでなく、税理士登録後の実務でも活用場面の多い分野です。代表的な業務との関わりを紹介します。
個人事業主やフリーランス、副業所得のある会社員の確定申告書作成で、所得区分や各種控除の知識をそのまま活用します。
不動産や有価証券の売却に伴う譲渡所得の計算は、相続税申告や資産税コンサルティングと密接に関わる分野です。
法人顧客が中心の事務所でも、代表者個人の役員報酬設計や年末調整、住民税との関係について相談を受ける場面があります。
不動産所得や配当所得の課税関係を理解していることで、顧客の資産運用や不動産投資に関する税務アドバイスの幅が広がります。
このように、所得税法の学習で得た知識は合格後も日々の実務で継続的に使うことになります。試験勉強の段階から「実際の申告実務でどう使われるか」を意識しておくと、理解が深まり記憶にも定着しやすくなります。
所得税法と法人税法、どちらを選ぶべき?

所得税法と法人税法はどちらも税理士試験の「選択必修科目」で、実務上はどちらか一方(あるいは両方)の合格が求められます。ボリュームが大きく学習期間も長くなるため、選択に迷う受験生は少なくありません。以下の比較を参考に、自分に合う科目を検討してみてください。
| 比較項目 | 所得税法 | 法人税法 |
|---|---|---|
| 標準学習時間目安 | 約600時間 | 約600~650時間 |
| 令和7年度合格率 | 13.0% | 13.5% |
| ボリューム | やや少なめ | やや多め |
| 実務での使用頻度 | 個人事業主・資産税分野で高頻度 | 法人顧客が中心の事務所で高頻度 |
| 向いている人 | 資産税・相続分野を目指す人、個人の確定申告に強くなりたい人 | 法人の税務顧問を中心にしたい人、会計事務所の主業務を意識する人 |
一般的には「将来どのような顧客層を担当したいか」で選ぶのが分かりやすい基準です。個人の確定申告や相続税申告に携わりたい方は所得税法、法人の税務顧問業務を中心に考えている方は法人税法が親和性が高いといえます。ただし合格率は年度によって変動するため、直近の傾向だけで判断せず、学習のしやすさや興味の持てる分野かどうかも重視しましょう。
直前期の対策講座

各予備校の直前対策講座は、本試験までの限られた時間で得点力を最大化するための総仕上げ講座です。詳しい内容は以下のページでまとめています。
所得税法に関するよくある質問

所得税法は独学でも合格できますか?
独学での合格も不可能ではありませんが、所得税法は理論暗記のボリュームが多く、計算パターンも多岐にわたるため、市販教材だけで効率的に学習範囲を絞り込むのは難易度が高い科目です。多くの合格者は予備校の理論マスターや問題集を使い、出題頻度の高い論点から優先的に学習を進めています。
所得税法と法人税法はどちらが簡単ですか?
年度によって合格率が変動するため一概には言えませんが、令和7年度は所得税法13.0%、法人税法13.5%とほぼ同水準でした。ボリュームは法人税法の方がやや多い傾向にあるため、学習時間を確保しにくい方は所得税法を選ぶケースもあります。
所得税法の知識は実務でどのくらい必要ですか?
個人の確定申告業務や相続税申告における譲渡所得の計算など、資産税分野の実務では所得税法の知識が頻繁に必要になります。法人中心の事務所であっても、経営者個人の申告サポート等で活用する場面があります。
所得税法の学習に必要な前提知識はありますか?
簿記論・財務諸表論のような複式簿記の知識は必須ではありませんが、税額計算の構造を理解する上で基礎的な会計知識があると学習がスムーズです。初学者でも予備校のカリキュラムに沿って進めれば問題なく学習を始められます。
本試験で得点力を上げるための当日のポイント

所得税法は試験時間2時間の中で理論・計算の両方を解答する必要があり、時間配分の失敗がそのまま失点につながりやすい科目です。当日に意識したいポイントを3つ紹介します。
①最初に全体を確認する
解答用紙と問題文全体にざっと目を通し、理論・計算それぞれのボリュームを把握してから解答順序を決めることで、時間切れによる大量失点を防ぎます。
②部分点を意識して書く
理論問題で全体を書き切れないと判断した場合でも、条文のキーワードや骨子だけでも記載することで部分点を狙えます。白紙は避けましょう。
③計算は取れる論点から着手
難易度の高い論点に時間をかけすぎず、確実に得点できる基本論点から手をつけることで、限られた時間内での得点を最大化できます。
他の科目もチェック
税理士試験は科目合格制です。他の科目の学習内容・攻略法もあわせてご確認ください。

